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概要
オライリーの「エンジニアリングマネージャのしごと」を読んだので感想を書こうと思います。
技術書のセールとおすすめ書籍を紹介しています。合わせてご覧ください。
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書籍概要
どんな本?
本書は、エンジニアリングチームのマネジメントの仕事全般を紹介し、エンジニアリングマネージャーに必要な考え方やスキルを解説します。
はじめに、自分の役割と組織のさまざまな部分がどう関係するかを理解し、習慣を整えることで自分自身を管理することを学びます。そして、日々のマネジメント業務で必要なツールとプロセスを紹介し、スタッフとの関係性の構築、モチベーションの理解、評価や採用などを解説します。
さらに社内政治や難しい状況での判断、その後のキャリアについて説明します。
マネジメントのさまざまな段階に沿って、日々の仕事に取り入れられる実践的なアドバイスを紹介する本書は、エンジニアリングチームのマネージャーに必携の一冊です。
- James Stanier 著、吉羽 龍太郎、永瀬 美穂、原田 騎郎、竹葉 美沙 訳
- 2022年08月 発行
- 376ページ
- 定価3,740円(税込)
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内容のまとめと感想
エンジニアリングチームのマネージャに必要となる仕事やスキル等に関してまとめている書籍です。
読者が実際に新人のマネージャーになったという設定で、時系列に沿ってどういった事をしていくのかを物語形式で学ぶことができるようになっています。
そのためイメージがしやすく、飽きずに読むことができます。
入門書的なポジションの書籍になるので、これからマネージャになるという人や、マネージャではないがリーダー的なポジションの人が読むと参考になるのではないかと思います。
多くの部分で一般的なマネージャに求められるスキルと重なっている部分があるので、非エンジニアリングチームのマネージャが読んでも面白いのかもしれません。
原著は洋書ですので、外資企業のやり方をベースにしており、日本企業的には?となるような部分もあるかもしれません。
自分自身はマネージャではないのですが、裏ではこういうことをやっているのかなぁといったことを学べたり、やっていないならばこうしてほしいという改善の提案のネタとして使えそうだと思いました。
本書の中で何度も取り上げられている重要な点は、マネージャー自身のアウトプットは、チームと影響を与えたチームのアウトプットであって、自作業の効率化やタスクをこなすことではないということです。
チームに仕事を委譲し、そのアウトプットをいかに上げるかといった点を本書では言及しています。
ですので、マネージャとしてチームをいかに良い形に持っていくか?といった事にフォーカスしています。(この辺りはファシリテーションのノウハウに近いですね。)
チームおよびチーム外とのコミュニケーションや繋がりの作り方、採用や退職、解雇といったイベント、自身のメンタルヘルスなど、マネージャとして必要になる各種イベントやノウハウなどが幅広く取り上げられており興味深く読む事ができました。
1章1章が比較的短めで、気軽に読む事ができるのも良い点だと思いました。
各章の個人的なまとめ
1章 あらたな冒険
マネージャーに着任して最初の1週間にすべき内容が説明されています。
まずは、チームメンバーと上司との1on1を行い、自身、チーム、上司の3つの見解(どう考えているのか?)を調査してそれをまとめる事が最初の仕事であると書かれていました。
それぞれの見解において、一致と不一致の部分をまとめて、それをベースにアクションリストを作成する事が最初の1週間の仕事であると述べられています。
週次でのチームメンバーとの1on1を推奨していますが、これはチームの規模にもよりそうですね。
(3〜4人くらいならなんとかなりそうですが。。。)
2章 まず自分を管理しよう
自分自身の時間の管理方法に関してまとめている章です。
大きく分けると、ツール、活動の記録、アプトプットの計測の3つに関して言及がされています。
ツール
カレンダー、ToDoリスト、メールといった汎用的なツールでどのようにスケジュールを管理したらいいか?といった方法に関して説明しています。
筆者オススメのツールといった形で言及はされていますが、基本的に特定のツールに依存しない汎用的な手法となっています。
(カレンダーであれば、純粋に打合せなどの予定を入れて、タスクはToDoに入れるなど。)
メールは、受信箱は常にゼロになるように不要なものは次々にアーカイブしていくといった形で、人によって好みが分かれそうな使い方ではありますが、本当に大量のマルチタスクをこなす人などであればこれくらいしないと管理できないのかなぁとも思いました。
この辺りはちょっと時間効率術的な別の本にも書いてありそうな内容ですね。
活動の記録とアウトプット
自分自身の活動を4種類に分類(情報収集、意思決定、ナッジング、ロールモデル)して、1日をどのように使っているかを記録する。
どのような配分にすることが理想かを考えて、生産性を高めていく。
マネージャーにおける生産性とは、自身のアウトプットだけではなく、メンバー+影響与えた他のチームのメンバーのアウトプットも重要になるため、自身のタスクを優先するのではなく、全体の最適化を考慮する必要があります。
3章 上手なコミュニケーションをするには
マネージャにとってチームメンバーや上司とのコミュニケーションを行うための、コツやノウハウが書かれている章です。
大きく分けて下記の3つに書かれています。
- コミュニケーションの手法や特徴
- 仕事の委譲方法
- 上司との連携
1に関しては、対面、メール、チャットなどの各コミュニケーション手法の特徴や使い分けや、そのやり方など一般的なコミュニケーション論的な内容です。
2に関しては、マネージャーとしていかにメンバーに仕事を委譲するか、委譲するためのノウハウや手法が説明されています。
いわゆる、丸投げやマイクロマネジメントにならず、委譲するメンバーの状況に応じてどの程度フォローアップをするか?といった事をコントロールするかが大切という事ですね。
3に関して、上司へのコミュニケーションを積極的に取りつつ、定期的に仕事に関するサマリーを記録しておく事が大事と書かれています。
記録の方法として、4つのPというアプローチが有効とされています。
- 進捗(Progress): 前回の記録から何が起こったか?
- 問題(Problem): どんな問題が起こったか、対処が必要なものは何か?
- 計画(Plans): 問題に対してどう取り組む予定か?
- 人(People): チームの人は状況(良い状態?辛い状態?)、何を改善できるか?
4章 1on1
チームメンバーとの1on1の進め方に関して書かれている章です。
最初の1on1の進め方から始まり、次回以降の進め方や会話の進め方などに関して書かれています。
コーチング的な会話術に関して書かれている感じですね。
- コントラクティング
- 初回の1on1の進め方として、お互いの期待する点に関して話を進めていく方法
- 一番サポートが必要な分野は?
- どんな形でフィードバックやサポートを受けたいか?
- 一緒に働く上での問題は何か?
- サポートがうまくいっていないことをどうすればわかるか?
- 初回の1on1の進め方として、お互いの期待する点に関して話を進めていく方法
- 話す内容と進め方
- 基本的に相手のための時間なので、相手の思考や意見を引き出す
- 答えを提供するのでははなく、思考を引き出すような質問を行う
5章 何が人を動かすのか?
チームメンバーのモチベーションを保ち、キャリアアップを促すための手法に関して書かれた章です。
マズローの欲求階層を使い、上位の欲求(自己実現、承認欲求)を満たせるようにメンバーを導くように支援していく事が大切だと書かれています。
個人によって、性格やモチベーションに違いがあり、その特性に基づいて対応を考える事が大切とも言及がされています。
- 大聖堂モデル
- 管理と安定を好む
- 提供すべき機会
- 特定分野のエキスパートになる
- チームの礎になる(チームがアドバイスを求めてくる)
- メンタリングの機会を与える
- バザールモデル
- カオスと変化を好む
- 提供すべき機会
- 新しいことをもってくる
- 素早いプロトタイプや実験の機会
- 停滞を避ける
- 他のチームへの一時的な移動
6章 1年で一番輝かしい季節
年に1回実施される、評価面談に関してのトピックです。
評価面談というと、悪い点を含めて率直に告げないといけない気まずい雰囲気のあるイメージがありますが、本書ではいかにポジティブな評価面談を行うか?といった事が説明されています。
評価面談でやらないといけないと思われているマイナス面を迷信として、必要がない理由を説明した後に、実際に必要となる事前準備や話の進め方が書かれいます。
7章 採用中!
メンバーの新規採用に関するノウハウが記されされた章です。
原著が洋書なので、基本的にチームのマネージャが採用に大きく権限を持つ外資企業っぽい形にはなっていますが、日本企業でもある程度は参考になるのではないかと思います。
どういった人材を採用べきなのかのチームの分析や、職務記述書の記載方法、面接のプロセスなど、かなり具体的な方法が説明されているので、これからやるといった人が読むと参考になりそうですね。
8章 ゲームオーバー
前章とは対照的に、退職者や解雇に関するトピックを扱っています。
特に人材の流動性が高いIT業界では、必ず一定の割合で転職が発生してしまうのは仕方ない事として、基本的に祝福してポジティブに送り出す事が大切と書かれていますね。
ただし、退職の理由が不本意な退職(給与、人間関係など)な場合には、残ってもらえる可能性があるので、残ってもらうことに価値があれば、交渉するための方法なども書かれています。
解雇に関しては、パフォーマンスが上がらないメンバーに対して最終的な手段として業務改善計画(PIP)を作成して、一緒に改善を進めていった上で、それでも達成できなようであれば解雇するといった形で紹介がされています。別の書籍でもこのPIPに関して見た事がありますが、外資だとこういったスタイルが一般的なのかなぁと思いました。日本の企業だと配置転換とかそういった事になりそうなので、この辺は日本と海外で違いが大きそうですが、問題があるメンバーを改善するためにこういった取り組みを考えてやるといった点は重要かもしれませんね。
9章 友人を作り、人に影響を与えるには
本書では、マネージャのアウトプットとしては、チームおよび影響を与えたチーム外のアウトプットと定義されています。
そこで、チーム外への影響を与えるためにどのようにネットワークを広げていけば良いのか?に関して書かれている章です。
接点を持つべき人の見つけ方や、実際に接点を持つ方法などが書かれています。
異なる部門の人に対して、まずは軽く情報共有的な形で話してみませんか?的なメールを送付してみるという手法が書かれていて、コミュ障的な人間には、ちょっと敷居が高く感じてしまいますが、ダメ元で気楽に相手が興味を持ちそうな話題をメール等でしてみるのは新しい出会いの機会として面白いのかもと思いました。
また、それ以外の繋がりの作り方として、これまで身につけたスキルや経験を共有する事が紹介されており、具体的な方法としてメンタリングとコーチングが紹介されています。
この2つは人に教える際の技術として、様々なメディアで紹介されていてるので多くの人がある程度は知っているかと思います。
本書ではそれぞれの特徴とやり方などがサクッと簡単ではありますが、紹介されています。(本格的にやったらそれぞれで1冊書けそうなテーマなので・・・)
メンターは具体的に専門性を持つ人間が何かを教えて指導するというのに対して、コーチングはいわば会話スキル的なもので、答えを知っていたとしても、基本的に聞き役に徹して相手に答えや次の行動を導くといった手法なので、その分野の専門性が無くても指導ができる方法だなと認識しました。
10章 人間って難しい
本章で扱うのは人間と仕事をする上での難しさです。チーム内外含めて、多くの多くの人間と仕事をする上での人間関係を主体とした問題や対処に関して書かれています。
チームへの悪いニュースの伝え方、メンバーへの動機付け(ムチとにんじん)、人間の特性(ダニング=クルーガ効果、インポスター症候群)とその折り合いの付け方など、マネージャが扱わなければいけない人間とのコミュニケーションの難しさを感じます・・・。
- ダニング=クルーガ効果
- 知識がそれほどない人間ほど、過信して不適切な判断をしてしまう(かじったレベルの知識の人間が知識をひけらかすなど
- 自信過剰であったという事を気がつかせる必要がある(コーチングのようにリードして質問で相手に何度に気が付かせる
- インポスター症候群
- 本来はスキルの高い人間が、自分の脳呂を認められない自信がない状態
- 成功体験を繰り返させて自信を持たせる前向きになるように仕向ける
11章 プロジェクトって難しい
プロジェクトで問題が発生した場合など、マネージャにとってストレスがかかるタイミングでどのようにすれば良いのか?に関して言及されている章です。
この辺は実際に急にできるものではないので、予め準備をしっかりとして取り組んでおく必要性がありそうですが、効果はありそうです。
こういうの見るとマネージャーは大変だなぁ・・・とつくづく思います。
- サウロンの目(多くの関係者からのデリバリーへのプレッシャー)
- チームの足並みを揃える:チームも同じプレッシャーを感じているはずなので、足並みを揃えて協力する
- 過剰なまでのコミュニケーション:ステークホルダーに週次で報告するなどの密な連携
- 頻繁なリリース:ステークホルダーにフィードバックをもらう
- 現実的になる:技術的負債を許容する。(ただし、後でリファクタリングなどが可能なように記録しておく)
- あなた自身の成功の犠牲者(事業が成長するにつれてスピードが遅くなる事への無理解)
- 人間の神話でもおなじみなように、人員が増加するほどスピードは低下していく
- レガシコード(技術的負債)による開発効率の低下
- どうしたらいいの?
- 隠れた複雑性を明らかにする:簡単に見える機能でもやらなきゃいけない事がたくさんある事を説明する
- 常に進捗を示す:常に触れるデモなどを提供して、フィードバックを受け取れるようにしておく
- ソフトウェアを実用主義で開発する:技術的負債を解決するために20%などの一定割合を確保して将来に投資する
- スコープ、リソース、時間
- これら3つの妥協点を見つける必要性がある
- スコープ:実現する機能の優先度をつける。どこまでが必須かを決めて、あとはストレッチゴールにする。
- リソース:作業の分類を行なって、並行で可能な部分と順次開発が必要な部分を見極める。
- 時間:締め切りがずれることの影響を確認(何かイベントがあるのか?それに間に合わない場合は?
12章 情報の証券取引所
機密情報や社内政治といった、マネージャらしいドロドロとした話題に関してどう扱っていくべきなのかに関して言及しています。
機密情報をメンバーに伝えるタイミングや内容など、情報をどうやってコントロールするか?社内政治をうまく使うためにチーム外とどのようにつながっておくか?といった話題が書かれています。
個人的には当たり前の話だったり、ピンとこない内容が多くてさっと読んでしまいました。
13章 コントロールを手放す
マネージャーとして仕事をメンバーに委譲し、手放すコツに関して説明しているのが本章です。
具体的には、1:タスクを手放す、2:創造的な思考のための時間を作る、3:身体的、精神的なケアを行う
の3つに関して説明がされています。
1(タスクを手放す)に関しては、大切な点は、物事に対して「コントロール不可能・可能、ある程度可能」、といったものを認識して、不可能なものに対して考えないということです。
ある程度コントロール可能なものに対しては、外部ゴール(目標値などコントロール不可なもの)と内部ゴール(スコープやリソースなど)を決めて内部ゴールを満たせるようにベストを尽くすべきと本書は言っています。こうすることで、仕事を委譲してうまくいかないとしても、内部ゴールを目指せるように取り組めば自信はベストを尽くせたと精神的な平静を保つ事ができると言っています。
要は、どうなるかわからないものに対して不安に思うのはやめましょうということですね。
2(創造的な思考のための時間を作る)に関しては、人間の脳はLモード(実際の実務などで使用する)、Rモード(創造的なアイディアを思いつく)に別れていて、Rモードを有効活用する事が大切と述べられています。Rモードは、コントロールできるものではないので、散歩など仕事をしない何もしない時間を作り出して、働いてもらう必要があると言及しています。
このあたりは、以前紹介した「リファクタリング・ウェットウェア」でも同じ内容を言っていましたね。
3(身体的、精神的なケアを行う)に関しては、睡眠時間を多く摂って体を適度に動かしましょうといった一般的な健康論なので多くの人が知っている事かと思います。(知っていても実践できるのかは別問題ですが・・・)
14章 良いハウスキーピング
あるあるですが、チームを超えたナレッジが共有されず、あちこちのチームで同じようなミスをしたり、車輪の再発明が行われていたりといった事が起きていたりします。
チームを超えて新しいプロセスを導入したりすることで、チーム間で起きている同じようなミスを無くす事を目的とした「ハウスキーピング」の方法に関して言及している章です。
手法としては、1:ギルドの編成、2:トーク文化の推奨、3:問題から学習する方法 の3つが紹介されています。
ギルド
余計なコミュニケーションチャンネルを増加させずに、チームを超えて知識を共有する手法としては、「ギルド」といった共通の興味やスキルを持つグループを編成して対応するといった事が書かれていました。
この方法自体は「Spotify」で使われている方法で、以前紹介した「ユニコーン企業のひみつ」に詳細が書かれていました。
トーク文化の推奨
お互いに自身の知識などを共有できる環境を作り出す。
まずはチーム内で気軽にライトニングトーク(5分くらいの短いプレゼン)を始めてみる。
慣れてきたら、チームを超えてより長い部門トークを行なってみる。
こういった形で、ナレッジなどを共有する文化を作っていく。
15章 デュアルラダー
自信とチームにおけるキャリアアップのための、フレームワークを作る方法に関しての章です。
キャリアとして、エンジニアを続けるICトラック、管理する側に行くマネジメントトラックの2つを定義して、それぞれの職位(ジュニア〜シニアなど)を定義しています。
それらをメンバーと1on1などで定期的に確認して、目標を建てつつキャリアアップを図っていくといった内容が書かれていますね。
この辺りは外資企業だと一般的な考え方ですが、日本のそこそこの規模の企業だと、そもそもの仕組みを変えないと難し部分がありそうです。
(最近は専門職的なポジションを作ったりしていますが、基本はマネージャーにならないといけないイメージがあります。)
16章 現代の職場環境
ダイバーシティ、リモートワーク、ワークライフバランスなど、現代の職場環境において取り組まないといけない問題に関しての章です。
このあたりもよく耳にする一般的な話題で、目新しさは特に感じられませんでした。
17章 スタートアップ
スタートアップ企業におけるマネージャの役割や注意点が書かれています。
この章も、スタートアップに関しての一般的な考えなどが書かれていて、既に目にした事がある人が多いのではないかと思います。
18章 クリスタルボール
最後の章は、自身の今後のキャリアを考えるための手法に関して書かれています。
やり方としては、これまでの10年を振りかえった上で、次の10年をどうしたいのか?を考えて、1〜5年くらいで実現すべき事の計画を立てて取り組んでいくといった内容です。